Helsingin Sanomat紙, 2018年9月29日(土)
日本はフィンランドのネウボラに強い関心を示し、日本政府は家族をより良く支援する方策を求めフィンランドから教訓を学んだ。そのねらいは、2020年までに全国にネウボラを普及させることである。サービスの目標は、妊娠・出産を自発的に促すことだ。というのも、日本の人口はフィンランドよりも急速に高齢化しているからである。Helsingin Sanomat紙のアジア地域特派員のKatariina Pajari記者とHeidi Piironenカメラマンは、これからはじまる連載記事で、日本での人生についてレポートする。
新聞記事で大げさなことを書きたてるのはふさわしくないが、毛布の上で声をあげている生後およそ3か月のリツ、サンタロウ、リクト、サヤ、リオは、本当にかわいく、ふわふわと柔らかく、髪が豊かで、美しく、賢そうな眼差しをした赤ちゃんだ。
これらの赤ちゃんは皆、日本版ネウボラの経験が豊富にある。日本は、2020年末までに子育て世代包括支援センターが全国に普及することを目指している。現時点で、日本全国で約300の自治体にこのセンターがある。
東京の文京区では、場所の名前は全くフィンランドのとおりネウボラ(neuvola)であるが、neuboraあるいは、子育て世代包括支援センターということもできるだろう。
地方自治体は自らが名前を決定することができるが、幼い子どもとその家族に支援と保健医療を提供するという基本理念は常に同じである。
この37年の間、日本では毎年のように記録を塗り替えている事柄がある。人口における子どもの割合が減り続けているのだ。
昨年の乳児出生数は941,000人だった。日本では119年にわたり出生数が記録されてきたが、これほど出生数の少ない年はかつてなかった。
同じ年、日本では134万人が死亡した。日本では外国からの移民は極めて少ない。
日本は、人口の高齢化とそれがもたらす問題に直面している最初の先進国である。将来、フィンランドも同じような道をたどることが予想されている。生産年齢人口を確保し、彼らがゆくゆくは高齢者介護にかかる経費を負担するために、赤ちゃんが必要なのだ。
次に挙げることを、社会の授業で学んだことを思い出す者もいるだろう:人口を年齢ピラミッドから見ると、理想的な形は三角形である。日本やフィンランドの人口ピラミッドは、下部が狭まった形をしている。
文京区のネウボラで、日本の赤ちゃんたちは床のマットの上で、うつろに寝転がり続けている。リツのみが、しゃくりあげている。少し前に、母親が急に腹ばいの姿勢にひっくり返したために機嫌を損ね、ちょうど今、気分が回復しつつあるのだ。
駄々をこねているリツを除いて、赤ちゃん5人組は、ネウボラ・システムに対してとても満足しているようだ。彼らの母親たちも同じことを言う。ネウボラ・システムの理念がフィンランドに起源があると聞いて、彼女たちは驚いていたのだが。
彼女たちはムーミンのことはもちろん知っているし、マリメッコも知っているが、今やネウボラのことも知っているのだ!いずれにしてもとても良いことですね、と母親たちは首を縦にふる。
彼女たちはネウボラが提供する授業を受けるためにやって来た。合同庁舎の三階にある体操室で、ピンクのユニフォームに身を包んだ看護師(保健師)が、今日は、子どもと両親の間のコミュニケーションについて話をする。
授業のテーマはフィンランドでも馴染みのあるものだ:言葉に加えて、表情や触れることも重要なコミュニケーションです。抱っこしましょう。
赤ちゃんたちは中心に寝転がり、母親たちはその周りに輪になって座っている。ひとりの赤ちゃんが泣き始めると、他の赤ちゃんたちも同調する。食事についても同様のことがおこる。ひとりが食べ始めると、他の赤ちゃんたちも欲しがる。
赤ちゃんたちは、母親の授乳カバーの下に隠れて見えなくなる。
「独りの時間が多いんです。ここに来て、他のお母さんたちとお話ししていると、日常生活に安全と安心感が得られます。」と、リツの母親のヤマグチ・ミホは語る。
「ネウボラは紛れもなく、フィンランドの輸出品です。」とフィンランド保健・福祉研究所のTuovi Hakulinen研究リーダーは語る。Hakulinen氏は2000年代を通して、日本に対して積極的にネウボラを宣伝してきた。
「お金は動かないけれど、ノウハウは先に伝わっていきます。」とHakulinen氏。
Hakulinen氏と横山美江教授は、10月下旬に本を出版する予定だ。その本では、日本の視点からフィンランドのネウボラを検証する。
横山教授によると、ネウボラに関する最大の学びは、家族全体を考慮することにあるという。これまでのところ日本では、母親と子どものみを対象にしてきた。通常、父親は仕事中心の生活をしており、家族にあてる時間が少ない。
「父親の態度や行動が変化するまで、まだまだ年月がかかるでしょう。でも、ネウボラはその点で助けになります。」と日本人の教授は話す。
ロビーのテーブルには、ビニール表紙のsカードがきれいに積み上げられている。壁には模造紙があり、そこに、母親たちがポストイットに記入した質問や話し合いたい事柄が貼ってある。
どんな状況で夫から最も多くの支援が得られるでしょうか?母になってから、最も役に立つ発見は何ですか?
母親たちは日常生活について、たくさんの質問があるが、それは日本政府も同様である。家族をもつことに対して、国民がより魅力を感じるための方策を、日本は必死に模索している。
女性が望めば早期に職場復帰できるためには、少なくとも支援、助け、そして保育所が必要だ。
日本の法律では、母親(出産)休暇として、出産前の6週間と出産後の8週間が定められている。その後、母親は子どもが1歳になるまで、失業保険を得ながら家で育児をすることができる。月額の給付は給与の67%である。
父親も法律上は同様に家にいることができるが、こうした育児休暇を取る者は滅多にいない。父親が休暇を取って家にいる日数は、平均で約1週間だ。
文京区版ネウボラでは、活動を開始して三年になる。ネウボラでは日常生活だけでなく、産後うつのケアや家庭内暴力の事例でも支援を提供していますと、保健師のイシカワ・クミコは語る。
日本において目新しい点は、何とかやっていけるかどうかを母親と父親から尋ねることのみである。
「それから、赤ちゃんのことを、生まれてすぐに愛らしいと思えないとしても、それは極めて普通なことだと話すことですね。」とイシカワ。
日本では家庭内暴力がよく起こっている。2015年には、四人に一人の日本人女性が、パートナーから身体的な虐待を受けたと報告した。また児童虐待も増えている。
「日本では、直接にこういったことを話すことは滅多にありません。だから、アンケート用紙を使い、もし話すのが難しと感じれば、書くことで知らせられるようにしています。」とイシカワは話す。
ネウボラは誰かを保護・監護することはしません、そのかわり、少なくとも、ある種の傘の役割を提供し、そのもとで守られ、どこから支援を得られるかについてのアドバイスを与えます、と保健師のイシカワは話した。
原文(フィンランド語)のアドレスはこちらです。